あだち
by 戌井昭人
隅田川、食べ物が流れて、木が流れ、ゴミが流れて、人も流れる。心も流れて、季節も流れる。
そんな隅田川の橋を渡ると市場があります。川の風に乗っかって、市場のニオイがしてきました。
わたしの祖父は商店を営んでいて、子供の頃、市場によく連れてかれていたので、あの頃に嗅いだニオイが蘇ってきます。市場のゲートを抜けると、吹き抜けの屋根が連なっていて、街中よりも空が広い気がします。
グリグリ走るリヤカーやターレー、発泡スチロールの擦れる音、転がる木箱。
魚が、ごろごろと運ばれて、一匹のサンマがアスファルトに転げ落ちました。
死んでいたサンマは、ぐいぐいと生きかえり、生きかえってみたものの、水がないので焦ってしまいました。バタバタ、ビンビン、勢いあまって、ジャンプして、空を飛びながら、近くの水場を探していたら、「ああ、隅田川」、じゃぶんと落ちて、泳いで流れて海へ出た。
二日間、ズイズイ、海で泳いでいたら、また網の中、船に運ばれ、トラックに運ばれ、また市場に戻ってきました。あれはいったいなんだったのでしょうか?