DANCE TRUCK TOKYO
DANCE TRUCK TOKYO 2019
STORY SHINJUKU

「東京の15のはなし」
DANCE TRUCK TOKYOとパラレルに展開する、15人の作家が語る、15のものがたり。

vol.1 新宿:スミマサノリ(ライター・文芸作家/劇団SAIGEN)



SHINJUKU 2060
by スミマサノリ

 鉄くずの山を慣れた足取りで少年が駆け上る。頂上に立つと体を屈め、クネクネと曲がった鉄パイプの間を覗き、慎重に手を突っ込む。錆びた鉄パイプの奥を探りながら、鉄くずの山の下で腕を組む異様に背が高い男に向かって声をかけた。
 「レアかもしれない!」
 腕を組んだ男はピクリと左眉を上げ、レアを探る少年の向こう側にそびえ立つ壁を見上げる。高さ3.6メートルのその壁は、SHINJUKUの北から南に、約5キロメートルに渡って立ちはだかっている。
 「もうちょっとで届く!」
 シン自由主義敗北の象徴、シンギュラリティの壁、ネット上にそんな見出しが飛び交ったのが15年前。かつて鉄道が走っていた場所に、SHINJUKUを西と東に分断するその壁は建設された。AI首長の暴走。直接の原因をそう指摘したセンモン家たちは、壁が出来上がる前にすべて西に移住した。かつては歓楽街として賑わった東側には貧困層だけが残り、そこがスラム化するまでに時間はかからなかった。背の高い男と少年は、西に移住するためにレアを集めている。しかし、それが途方も無い作業であることを二人は知っている。西に渡るには、少年が駆け上った鉄くずの山ほどのレアが必要なのだ。1日で採れるレアの量はせいぜい耳かき一杯ほど、採れない日も多い。
 「どうだろ?これ」
 いつの間にか鉄くずの山を降りてきた少年の声に少し驚き、今度は右の眉をピクリと上げる。少年から手渡された鉱石を左手で握り、腰にぶら下げていた小さなハンマーを振り下ろす。パックリと割れた鉱石の断面を少年が覗き込んだ。
 「クソッ!」
 少年が唾を吐くのとほぼ同時に、背の高い男は二つに割った鉱石を鉄くずの山に向かって投げ捨てると足元に置いてあったデイバッグを拾い上げた。
 「北に行くの?」
 背の高い男は伸びきった顎髭を右手で触り、何かを思い出したかのようにデイバッグの中を探る。少年は背伸びをしてデイバッグの中を覗こうとするが届かない。男はバッグからピンク色をした棒状のモノを取り出す。先端には直径2センチ、長さ10センチほどの円筒が付いている。少年が円筒に書かれた文字をゆっくりと読み上げた。
 「ロ・ケッ・ト?何これ?」
 男は少年の質問に答えず、さっきまで少年が立っていた鉄くずを登り始めた。
 「だから、何なの?それ」
 頂上に立った男は、少年がその奥を探っていた鉄パイプの先端にピンクの「ロケット」を差した。乱暴に鉄パイプの角度を変えて照準を壁に合わせ、ズボンのポケットからライターを取り出す。カチッカチッと石を回すとライターから弱々しい火が立つ。 男は小さく頷くと円筒部分に火を点けた。
プシュプシュプシュプシュと音を上げた「ロケット」は、次の瞬間、ピーッという悲鳴とともに空に上がる。壁に向かって一直線に飛んでいく小さな飛翔体を、少年は小躍りしながら見守る。すげえ! だが、その「ロケット」は壁の手前でパスンっと小さく爆発して、落ちた。
 「あーあ」
 肩を落とす少年に向かって男が大きな声で言う。
 「祝砲だ!」
 少年はロケットが爆発したあたりを見つめながら、だってレア採れてないのに!と心の中で男に向かって抗議する。そんな少年の気持ちをあざ笑うかのように、男は大きな声で「ハハハハハ」と乾いた叫びを壁に投げつけた。



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