立川で育つ
by 中込遊里
娘の1ヶ月検診の日、産婦人科の先生に「子どもはのびのびと転がって遊ぶのがよいです、昭和記念公園なんか最適です」と指南された。正確な年齢は知らないが70歳以上のおじいちゃん先生なので、これまで数え切れないくらいの母子たちが昭和記念公園をオススメされているのだろう。
私は、日野市で育って、20代半ばから都心で暮らして、約5年前、結婚・妊娠をきっかけに立川市に引っ越した。子育てしながら劇団の活動を続けるために、実家に近い立川市で暮らすことにしたのだった。
お医者さんの薦めに乗ったからというわけではないが、国営昭和記念公園の近くに、娘と夫と3人で住み着いた。立川市と昭島市にまたがる「旧立川飛行場」のあとに建設された、165ヘクタールという広大な公園は、確かに子どもがゴロゴロ転がるには最適だった。自宅保育の時期は年パスを買って通った。
保育園に入り、劇団活動と仕事に追われる日々になってからは、昭和記念公園もご無沙汰になってしまった。でも、通勤で隣を通ると土日は入園ゲートに車が列をなしていて、季節の花や夏祭りの花火、クリスマスイルミネーションなどで賑わう巨大な公園の近くに住んでいることはなんとなく清々しい。緑の大きな懐にいつでも入れる、という逃げ場があるような気がする。
公園のみならず立川市は魅力のある町だ。駅前に商業施設が揃い、オシャレなものが並ぶ。同時に、地産地消の農作物も気軽に買える。多摩モノレール、中央線、南武線があり交通の便もよい。今も続々と商業施設が立ち、去年は多摩地区ナンバーワンの規模を誇る2500席のホールもできた。
立川市に「文化芸術のまちづくり条例」という文化芸術振興の条例があることは、立川市の文化創造拠点「たちかわ創造舎」で劇団活動を始めてから知った。
立川駅北口には「ファーレ立川」という街中アートがあり、近隣の武蔵野美術大学、国立音楽大学では未来の芸術家が育ってゆく。2016年に立ち上がった「たちかわ創造舎」には、廃校となった小学校を文化施設として活用するという立川市の決定のもと、主に演劇関係のアーティストが集められた。私もその一人だった。それから約5年、幸福な出会いによって着実に道は開けていった。
私の娘は立川市で5年間育ち、これからも成長期を過ごすだろう。来年小学校にあがったら、カリキュラムに組み込まれている「ファーレ立川鑑賞教室」も体験するだろうし、舞台芸術を見る機会も多くあるだろう。その母も、立川市に育てられた。母親として、演劇人として。人は町とともに育つ。