DANCE TRUCK TOKYO
DANCE TRUCK TOKYO 2019
STORY TAKANAWA

(撮影日:2021年8月28日)


「東京の15のはなし」
DANCE TRUCK TOKYOとパラレルに展開する、15人の作家が語る、15のものがたり。

vol.10 高輪:村社祐太朗(演劇作家/新聞家)



トマトバジルチキン
by 村社祐太朗

 二年にあがると、JR田町駅から学校まで歩くことにした。都営大江戸線の赤羽橋駅に降り立つよりも単に通学定期の金額が半分くらいになるというのと、秋葉原で総武線から山手線や京浜東北線に乗り換えるようになるので、通学全体がタイトになるというメリットがあった。
 田町駅の改札内には当時、Becker'sがあった。Becker'sはエクステリアこそ特徴はないが、店内に入りレジカウンターに近づくと、脇のショーケースがかなり大きめであることに気づく。Becker'sは他のコーヒーチェーンに比べ、明らかにサンドウィッチのバリエーションが多い。その趣向は現在公式のWebサイト名が「ベッカーズ|ハンバーガー&サンドイッチ」であることからも伺える。
 わたしは「トマトバジルチキン」というサンドウィッチを偏愛していた。今現在もこの商品が現役かどうかは知らない。確か340円くらいで、ショーケースの中にあるサンドウィッチの中では一番安かったが、アルバイトをしていなかったわたしにとっては高価な代物だった。何か一日の中で達成感がある日などは帰りに一人でBecker'sに立ち寄りそのサンドウィッチを食べた。新聞部で部長をしていたため、3ヶ月に2度ほどの頻度で発行していた新聞を刷り終わった日などは当然立ち寄った。店内は全席カウンターで且つその角という角が流線型に整えられている。恐らく4台ほどあった楕円形のカウンターの中央にはそれぞれ目隠しの板があって、どこに座っても孤独を感じた覚えがある。
 トマトバジルチキンは、15cm幅ほどのクロワッサンに切り込みを入れ、タコス様にトマトとチーズ、バジルチキンが詰められたサンドウィッチだ。朝番の店員さんがまとめて作るのか、夕方に残っているサンドウィッチの種類はまばらだ。トマトバジルチキンの具はいくらか汁気があるので、わたしが買い求め食べる頃にはクロワッサンがかなりしゅんでいる。それが好きだった。甘めのパンが酸味のある汁を吸って、また冷蔵ショーケースで随分冷やされ固くなっている。それの独特な歯ざわりが好きだった。硬めのミルクレープを思い出す。
 当時わたしにはもう一つの帰り方があった。それは田町から一駅、秋葉原方面とは逆の電車に乗って品川へ行き、そこから横須賀線快速に乗って帰るという方法だ。運が良ければ秋葉原乗り換えよりも早く最寄り駅に降り立つ。
 品川エキュートの隅には小さな丸善があって、少しの本と少しの文房具がおいてあった。用がなくとも立ち寄った。ある日そこでSTAEDTLERの青いペンを買ったが、その後インクが切れれば買い足して、思えば今もこのペンを使っている。売れ筋の蛍光色とは一線を画する、やけに発色の良い青。

(2021年8月25日)






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